プライムリブ

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プライムリブ

明治のころの銀座の様子を描いた絵の中に「牛肉」の看板を見つけたことがある。

牛肉食は文明開化の象徴の1つであったらしい。国の威信をかけて整備された白煉瓦の銀座の街並みに唐突に描かれたその看板。いまの我々の目からしたら、そこはかとないおかしみを感じさせられるものであるが、当時の人々にとってはそれこそ晴れの姿の象徴であったにちがいない。和食としてのすき焼きも、その当時の日本人の発明品なのであろう。牛肉食における和食の雄がすき焼だとすれば、洋食の雄はステーキである。日本人にとってのステーキは永らくビフテキであったが、最近はビフテキという言葉をめっきり聞かなくなったから、ステーキもようやく日常食の1つとして定着した、ということなのだろう。

我が家の、というか僕のステーキ開眼は、例によってあるときの海外出張がきっかけだった。地元のステーキの名店の名物メニューがTボーンステーキだったのである。サーロインとフィレの間の骨の周囲の肉を骨つきのまま切り出したその肉のかたまりは、骨の近くの肉はウマイ、の定説どおりの逸品であった。その後しばらく僕のステーキ遍歴は、Tボーンを中心に廻っていくことになる。出張のたびに、近所にコスコ(COSTCO)をさがし、ポンド単位のTボーンが10枚ほども入った冷凍パックを買い込んでくる。それを宿のキッチンで焼くのである。骨付き肉の焼き加減は難しい。試行錯誤を続けながらやっと会得したステーキ肉の焼き加減。その結果、我が家ではもっぱら牛肉の調理は僕の担当である。

牛肉はステーキばかりではない。また別の出張の機会に出会ったものがある。プライムリブである。本来は肉の部位の名前であるはずが、いまはもっぱら調理法の名前になっている。低温で何時間もかけてあぶり焼きにした肉のかたまりを、客の希望のサイズに切り分けて出してくる。かたまり肉のあぶり焼きであるため、肉汁が内部に閉じ込められ、食感も食味もいたってジューシーなのである。ステーキは自宅で焼くことができてもプライムリブを焼くことは自宅ではむずかしい。そのためこのプライムリブだけは、どうしても外食せざるを得ないのである。そんなプライムリブ。それも本場モノを気軽にオーダーできる店があった。アウトバックステーキハウスである。

アウトバックのプライムリブはよい意味でいいかげんである。客のオーダーを聞いてからキッチンに残りがどのぐらいあるかを見に行く。340グラムをオーダーして340グラムが出てくることはまずない。340グラムというのは、それより小さくはカットしない、という目分量であるらしい。その日のプライムリブの残り具合によっては、最後のかたまりをまるのまま持ってくることもある。写真のプライムリブはとある宴会で品川のアウトバックステーキハウスのプライムリブを「食べつくした」ときのものである。僕がプライムリブをオーダーしたら、プライムリブのオーダーが延々と続いて、その宴会だけでその日・その店のプライムリブを食べつくしてしまったらしい。そんなわけで最後に出てきた皿のプライムリブは、どうみても1ポンドは超えていそうであった。

残念なことに、最近になってこの不況で手間のかかる逸品はメニューから落ちてしまった。近いうちにメニューに復帰してくれることを願うばかりである。

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